始まりを照らす光(ハル、ザマス)
元旦の、夜明け前。神社の境内で賑やかに行き交う人々を横目に、少し離れたところでハルは静かに佇んでいた。手を合わせ、何かを小さく呟く。
その瞬間、背後から聞き慣れた声がした。
「何をしている。ハル」
ハルは振り向かないまま、合わせていた両手を離した。
「見りゃ分かるだろ」
ザマスは遠くで、賽銭箱にお金を投じ、祈るように両手を合わせる人々を見やれば答えた。
「元旦という、人間の暦というものか」
神はため息をついた。
「願うなど、弱者のすることだ。」
興味が無さそうに、ハルに目を戻す。
「こんな無意味なことに時間を費やすなら、少しでも強くなるために修行に励めば良いものを」
ハルは少し鼻で笑い、肩をすくめた。
「勘違いすンなよ。俺は別に、ここで願えば何かが叶うなんて思ってねェ。」
ザマスは眉をひそめる。「ならば、なぜこんな無駄なことを?」
「これは俺の意思だ。」
ハルの言葉には、力強さが有る。
「ここで願うのは、俺がどうありたいか、自分自身に示すためのもんだ。誰かに叶えてもらうためじゃねェ。俺が決めたことを、俺が叶えるためにやってンだ」
「なるほど……"神頼み"をしに来たのではなく、あくまでも おまえ自身の誓いのために、ここへ来た…と言うことか」
「あぁ…」
「……実にお前らしい回答だ。その愚直さ故に 自分の道を歩もうとしている。だが…………悪くはない。」
その時、空が徐々に色を変え始めた。漆黒の夜から薄紫、そして黄金に染まる空。太陽が顔を出そうとしている。
ハルとザマスは自然と視線を朝日に向けた。光が静かに境内を照らし、影が後ろに伸びる。ハルは思わず目を細めた。
「……綺麗なもんだな。」
呟いたハルの言葉に、ザマスは答えなかった。ただ、その目に朝日を映しながら、静かに立っていた。
新しい年の始まりを告げる光。その中で、彼らの間に流れる空気がどこか変わったような気がした。ザマスは低く静かな声で告げる。
「お前がどこまでその意志を貫けるか、見届けてやろう。神を師匠にしたお前が、どこまで強くなるものなのか」
「ふんっ…期待してろよ。そのうちお前の想像を超えてやるからな。」
もし強くなったとして、その力を何のために使うのか、きっと目的は違う。それでも、言葉を交わした直後の沈黙は、不思議と心地よかった。まるで互いに次の一歩を認識し合ったかのように、静かだが確かな絆がその場に生まれていた。
互いの背中を見送ることなく、二人はその場を後にした。だが、朝日の中で交わした言葉と互いの存在は、これからの関係を新たな形に変えようとしているのを、どちらも薄々感じていた。二人の間には、言葉にしがたいが確かな何かが芽生え始めている──それが新しい年の幕開けを告げる光の中での約束だった。
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