父との再開2
薄れかける意識の中で、ハルは仮面の男の動きに何かを感じ取った。無駄のない鋭い攻撃の軌跡、刃のように鋭い一挙手一投足。それは……どこかで見たことがある。
まさか……親父……?
心の中でその言葉がよぎった瞬間、仮面の男の刃が、容赦なくハルに向かって振り下ろされようとしていた。息が詰まる。逃げられない、避けられない。
その時だった。
「そこまでだ」
その瞬間、光のような閃きが仮面の男とハルの間に割り込んだ。声の主は……ハルの師匠、ザマスだった。彼の手は光を纏い、仮面の男の攻撃を受け止めていた。
「……ザマス……」
ハルは目を見開き、信じられない思いで彼を見つめた。
ザマスは無表情のまま、仮面の男を睨みつけていた。その瞳には冷たい怒りが宿っていた。「この男の命は、まだ私が管理している。勝手に奪うことは許さんぞ。」
仮面の男は一瞬怯んだように見えたが、すぐに体勢を整えて後退した。彼の仮面の奥で、何かが揺らいでいるようだった。
ハルはかろうじて体を動かし、地面に手をついて立ち上がろうとした。「ザマス……あいつは……」
ザマスはハルを一瞥し、低い声で答えた。「どうやら何者かに洗脳されているようだ。洗脳を解くには奴と戦うしかない。……ハル、立て。貴様の戦いは、そんなものではないだろう?」彼の視線は再びヤマブシに戻り、戦いの緊張が続く。
ハルは拳を握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。ザマスの激励は彼の心を奮い立たせた。体の痛みも、疲労も、すべてを押しのけるように。
二人は仮面の男に向かって立ち、互いに背中を預け合うようにして構えた。仮面の男もまた、新たな敵に直面するかのように身構えた。
その瞬間、ようやく仮面の男が口を開いた。
「立派になったもんだな、ハル……」
その声は……ハルにとって懐かしい声だった。幼い頃の記憶が一気によみがえる。
仮面の男の正体が自分の探し続けていた父、ヤマブシであることを確信した。
「親父……」ハルの心は複雑な感情で揺れた。再会を夢見ていた父が、まさか敵として自分の前に立つとは。
ヤマブシ「おまえの成長は父親として嬉しい…と言うべきだろう……、だが……今や憎々しい……!!貴様も…Lも……この世から居なくなってしまえ……!!」
その言葉はハルの心に深く突き刺さった。父は自分達を見捨てたと思っていた。それでも心のどこかで、そうではない事を願っていた。しかしヤマブシの言葉は、願いを裏切る内容だった。
「ヤツの言うことに耳を貸すな、ハル。あの者は洗脳されているだけで、本心を言っているわけではない。気を確かにしろ。」
ザマスが冷静に声をかけた。
そして一度目を閉じ、深い息をついた後、目を開けヤマブシを見据えた。
「……あれほど、呆れるほどに息子どもの話ばかりをしていた愚かな弟子が、そのような事を言うとは思えん。」ザマスは鋭い眼差しをヤマブシに向けた。「いったい何が有ったというのだ…?」
その問いかけは、ヤマブシを洗脳した者が何者なのかを探ろうとするものであった。ザマスにとって、かつての教え子がこのような状態になっていることは異常だった。
ハルはその問いに、かすかに希望を見出した。ザマスが真相を探り、父を救う糸口を見つけてくれるのではないかと。だが同時に、父の言葉の鋭さに深い傷を負った心が、簡単には癒えないことも感じていた。
ヤマブシの目がザマスに向けられた瞬間、空気が一変した。「家族ごっこに飽きたンだ……家族を持たねェ神さんが、人間様の事情に首突っ込んでンじゃねェよ」と冷たく言い放ち、ヤマブシはザマスに向かって一気に攻撃を仕掛けた。
ザマスは反応するも、ヤマブシの凄まじい力を完全にはいなすことができず、その攻撃をまともに受けてしまう。吹き飛ばされたザマスは、岩の壁に激しく衝突し、辺りに岩の破片が散った。
「ザマス!」ハルが叫ぶが、ヤマブシの動きは止まらない。瞬時にザマスの前に瞬間移動すると、彼の首を掴み、冷酷な笑みを浮かべながら言葉を続けた。「貴様、不死身になったんだってなぁ?死にたくても死にきれねェくらい苦しませてやる」
そう言いながら、ヤマブシはザマスに何度も拳を打ち込んだ。拳が当たるたびに鈍い音が響き、ザマスの体は何度も揺れた。
ハルは必死にその光景を見つめ、どうにかしてヤマブシに一発でも入れられないかと考えていた。彼の力は圧倒的で、正面からでは到底敵わない。だが、ヤマブシがザマスに集中している今こそ、何か策を見つけるチャンスかもしれない。
ハルは全身の力を振り絞り、ヤマブシの隙を見つけようと意識を集中させた。時間は限られている。ザマスがこれ以上痛めつけられる前に、行動を起こさなければならなかった。
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